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会話版〜ホントウの間柄② [舞台]

会話版〜ホントウの間柄②



「初めまして。お世話になります。杉浦浩美です」
「!」
「!」


「…あのう… 入ってもいいですか?」
「あっ! ああごめんなさい! どうぞお上がりください」
「靴はどうすれば」
「玄関に回しとくから」
「すいません」
「こっちの人が」
「あ、すいません」
「はい」
「玄関から入ればよかったですね。すいません」
「いいのいいの。あ、どうぞお座りください」
「失礼します」


「あたし、お茶持ってきましょうね」
「すみません」
「あんた今、見とれてる?」
「えっ! やめてよ」
「そうか。さっき見えた、変なものの正体はこれか」
「え?」
「いや」
「あのう… 明日香ちゃんは?」
「今ね、シャワー浴びてる」
「ああ」
「3年ぶりにあんたに会えるってさあ、嬉しくて現在磨き上げてるのよ、全身を」
「全身を?」
「そう。初日には見られるはずのないところまで、念入りに」
「そ、そうですか」


「波子。チラ見やめろよ」
「み、見てませんよ。お茶どうぞ」
「ありがとうございます」
「私は、有藤波子。この下宿の住み込みの管理人をしています」
「雇われよ、雇われ。結婚してたんだけど、もどってきたの。出戻りで雇われ」
「あ、はい」
「初対面でそこまで言わなくても」
「旦那がキャバクラの女に入れ揚げて…」
「エリザベス! ごらぁ!」
「ひっ! …働き者だけど、時々、切れるのが玉にきず。元ヤンだったのねー。レディースっていうの?」
「だから、バラシすぎ」
「はーい」
「改めて紹介するわね。こちら、小林高弥さん」
「小林です」
「杉浦浩美です。よろしくお願いします」
「小林さんは、一階のお部屋。個人タクシーの運転手。あ、知ってるわね」
「さきほどはお世話になりました」
「ど、どうも」
「ぎこちねえぞ。男やもめ」
「こちらは、昨日までフランシーヌ麗子さんだったんだけど、今日からエリザベス麗子さん」
「え? エリザベス?」
占い師をなさってるの。占い師の芸名みたいなもの?」
「占いは芸じゃないよ。能力。どうも、エリザベス麗子です」
「よろしくお願いします」
「リズって呼んでくれる?」
「…リズ… あ、はい」
「リズさんは、二階に住んでるのね。明日香ちゃんも二階。ここは一階に二部屋、二階が三部屋。あなたも二階の部屋を使ってください」
「わかりました」
「明日香は、あなたと隣の部屋がよかったみたいだけど、間にあたしの部屋が入ってる」
「あ、そうですか」
「ごめんね。邪魔して」
「いえ」
「えーっと… リンゴ食べます?」
「いただきます。すいません」
「今、むきますね」
「確認するけど、いい?」
「確認? …あ、はい」
「杉浦浩美さん… でいいんだよね」
「杉浦… 浩美です…」
「野本明日香の昔ッからの知り合いの、明日香の先輩の、杉浦浩美さんだよね」
「はい」
「元柔道部で、現在医大生の」
「はい、よくご存じですね」
「そりゃあもう、夕べ明日香から耳に蛸ができるぐらいに聞かされたから」
「そうですか」
「ホントに耳にタコだったんだよ。タコ、見る?」
「あ、いや、遠慮しときます」
「結構立派なんだけど」
「いえ」
「あんたもなんか聞くことないの?」
「いっ? いや、無いよぉ」
「あたしは、あんたがこの人に今一番聞きたいこと、何だかわかってるよ」
「やめてよ」
「波子も、聞きたいんでしょう」
「やめてください」
「柔道部では主将までやったんだって?」
「はい」
「すごいねえ」
「まあ、主将と言っても、別に強い部でもなかったから、そんなに活躍したわけでもないです」
「柔道部は、全員男?」


「はい、そうです。あ、高校の途中から女子柔道部も出来ましたけど」
「あんた、男子部だろ?」
「はい」
「あんた… 美人だねえ」
「あのいや、そんな」
「紛れもなく、美人だわ。うん」
「あの… はあ」
「美人だと思わない? 思うよね、小林」
「えっ…」
「思うだろ」
「まあ…」
「思うよな」
「はい」
「波子は?」
「リズさん!」
「どう思う? 美人だよね!」
「やめてくださいよ」
「美人だと思うだろ!」
「…思います」
「ほら。みんな美人だって。よかったね」
「ありがとうございます」
「杉浦く… 杉浦さんも飲んで」
「はい。いただきます」
「今、杉浦君って言おうとした」
「やめてくださいって」
「うわあ。三年ぶりです『おーいお茶』飲むの。おいしい」
「おいしいのよ、伊藤園やるなって感じ?」


「ヤな空気充満してるよ。突破するのは誰かな」
「どうですか? この下宿。気に入りました?」
「ええ。明日香ちゃんから写メは貰ってたんだけど、やっぱりジカにみると、ちがいますね」
「古いでしょ」
「でも、3年もボストンにいたから、新鮮です」
「暮らせそう?」
「もちろんです!」
「そ。よかった」


「小林、行けよ」
「ボストンは!」
「はい」


「…何があるの?」
「ザックリした質問だなあ」
大学が多いですね。アメリカでは古い方の街なんです」
「松坂、いたんでしょう?」
「いましたね」
「どんなヤツ? 松坂」
「会ったことはないので…」
「そうだよね」


「松坂のリハビリさあ、うまくいくといいね」
「そうですね」


「松坂がね」
「松坂の話はもういいよ。あのさ」
「はい」
「もう一つ、別の方法で確認したいことがあるんだけど、いいかな」
「別の方法?」
「そう。さっきとは別」
「あ、はい… 何を…」
「怒ンないでね」
「え? あっ」
「ご、ごめんなさい杉浦さん! ちょっとリズさん。どこ触ってるんですか!」
「小林。間違いないわ。胸いじってる」
「ちょっと麗子さん!」
「ごめんなさいね」
「あ、はい…」
「ホントにごめんなさい」
「大丈夫です。ある程度覚悟して来ましたから」
「ホントはもう一カ所の方行った方が確実なんだけど、ほら、もし有った時に、大変なことになるでしょう?」
「やめてくださいよ」
「リンゴ、食べてください」
「いただきます… おいしい!」


「明日香ちゃん!」
「浩美先輩?… 浩美先輩!」
「うん」
「やっと会えた! 久しぶり、先輩! うれしい、浩美先輩だ! 浩美先輩だ… 浩美… 先輩だ…」


「…えっ… 浩美先輩? 浩美先輩…」
「どう?」
「どうって?」
「明日香ちゃん! あたしね、女の子の体になったんだ!」


「へぇっ?… へぇっ…」


「さあ、面白いことになってきた」


○同日・十分後ぐらい

「明日香ちゃんは、全然知らなかったのかい?」


「明日香ちゃん…」


「とりあえず、写真は返しておくわ」


「ダメだ。完全にほうけてら」
「しょうがないかも知れないけど。こんな振られ方したんじゃ」
「ちょっと。あんた何言ってるの。まだ振られたかどうかわかんないじゃない」
「えっ… だって…」
「今判明してるのは、明日香の憧れの男が、女の体になって帰って来たってことだけなんだよ」
「うん…」


「それで充分でしょう!」
「いや、充分じゃない」
「どうして」
「向こうの恋愛の趣味が、どのタイプに属するのか、分からないじゃない」
「どのタイプ? 恋愛の趣味が? どういうこと?」
「あんた年の割りには世間知らずだから、説明してあげよう」
「うん」
「恋愛にはいくつかのパターンがある。これは理解できるね」
「うん、なんとなく出来る」
「一応整理しておくと、その1!『男と女の恋愛』その2!『男と男の恋愛』その3!『女と女の恋愛』大きく分けると、この三つだ」
「ええっと… そうだね」
「あんたはどれ?」
「男と女のパターンだよ。麗子さんは?」
「なんで人にそんなこと言わなきゃならないのよ」
「えっ… オレには聞いたじゃない」
「あんたはぼんやりしてるから、うっかりしゃべるだろうと思ってね」
「ぼんやりって…」
「いいかい。こういうのは、非常にデリケートな問題なんだ。それで悩んで死んじゃう人だっているんだよ」
「そうなんだ」
「毎週、その手の悩みを占いに来てた人がサ」
「麗子さんのところに?」
「リズって呼びな。あんたさっきから麗子麗子って」
「リズ…さん… 違和感あるなあ」
「で、何の話だっけ?」
「だから、毎週占いに来てた人」
「ああ、そうそう。その人が、やっぱり自分の恋愛趣味について悩んでてさ。ある日突然、ぱたりとこなくなったと思ったら、その人、亡くなってたんだよ」
「へえ… え、でもリズさんはその人の名前も住所も知らないんでしょ?」
「まあ、基本、占い師に自分の氏素性を告白するヤツはいないからね」
「どうしてその人が亡くなったってわかったの? あ、家族の人が報告に来たとか?」
「いいや」
「じゃあ、友達とか?」
「いいや。毎週占ってもらってたことは、誰にも言ってなかった」
「じゃあ、どうして亡くなったってわかるの?」
「亡くなったあとにさ、本人が報告に来たの」
「えっ…」
「自殺だったんだよ。それで、『すいません、この道を選んでしまったので、もう占ってもらうこともありません』ってさ」
「本人が?」
「本人が。つーか正確には、本人の霊魂だけどね」
「いっ?」
「それで、恋愛の趣味は、まだ細かく分けられるんだ」
「あ、そうなの」
「たとえば、『男と女の恋愛』でも、実は同性愛と、異性愛に分けられる」
「…どういうこと?」
「一番多いのは、男と女で異性愛」
「ああ、ノーマルなやつね」
「あんたね。ノーマルなんて言ったら、場合によっちゃぶっ飛ばされるよ」
「どうして?」
「ノーマル以外の人を、アブノーマル扱いしてることになるからだよ」
「…はあ…」
「異性の恋愛はヘテロとかストレートって言うの」
「だけど、男と女は異性に決まってるんでしょ?」
「外見はね。でも、ちがうかもしれない。男の方が男の見た目だけど、心が女だった場合、見た目は男と女だけど、心は女同士の同性愛。同じように女の方が女の見た目だけど、心は男だった場合、見た目は男と女でも、男同士の同性愛。男が見た目男で心が女、女が見た目女で心が男だった場合は、見た目は男と女でやっぱり異性愛。ただ、見た目と中身が逆。わかる?」
「もう無理」
「見た目が男同士と女同士についても講義しようか?」
「やめといて。頭、爆発する」
「じゃあ、具体論に移ろうか」
「ねえ、なんでリズさんはそんなに詳しいの?」
「昔、大学の講師だったことがあってさ。この手の授業も何コマか持ってた」
「えっ? 占い師の前は、ペットのトリマーだったんじゃないの?」
「その前だよ」
「リズさんて、何者なんですか。で、具体論て?」
「この状況で、明日香の恋愛が成就するパターンには何があるか」
「もう無いでしょう。この状況は。ひとごとながら、あんまりな状況だもん」
「いや、無いではない」
「あるの?」
「考えてみよう。まず、あの浩美って子は、わざわざ女の体に作り替えたんだから、心はまず女と思って間違いない」
「そうだね」
「一方、明日香は、今のところ同性愛ではない」
「うん… えっ、今のところってなに」
「可能性があるとすれば、浩美が心は女でも恋愛は同性愛者であり、同性愛者として明日香をスキになる。明日香ももともとは異性愛者だけど、同性愛を受け入れる。このパターンだけだね」
「明日香ちゃんが同性愛者に? それはないでしょう」
「いや、愛の力はそんなに単純なものではないかもしれないよ」
「そうかなあ… 明日香ちゃんが同性愛者にねえ…」


「あっ! いけね! 明日香ちゃんいるんじゃん!」
「聞こえてないよ」
「明日香ちゃん! 明日香ちゃん!」
「あ、小林さん」
「明日香ちゃん… 今の話、聞いてた?」
「今の話? なに?」
「ホントだ。聞いてねえや」
「二階はだいたい、ああいう感じです」
「はい」
「じゃあ、今度は洗面所とお台所とお風呂の説明しますからね」
「お願いします」


「こっちよ」
「あ、はい」
「ねえ、明日香ちゃん。明日香ちゃん!」
「明日香ぁ!」
「あ、はい」
「明日香ちゃんさあ」
「うん?」
「全然知らなかったの? 浩美君の手術のこと」
「全然知らないよぉ」
「メールでも、一言も?」
「一言もなかったよ」
「日本にいる頃も、そんなそぶりなかった?」
「そんなそぶりって、どんなそぶり?」
「必死に隠してきたんだな」
「ああ! もう! 混乱して、気持ちが整理できない! 小林さん!」
「えっ… なに?」
「こんな振られ方って、ある?」
「さあ…」
「経験ある? 好きな女性がいきなり男になってた」
「無い無い」
「フランシーヌさんは?」
「リズ」
「え?」
「今日から、あたしのことはリズって呼んで」
「どうして?」
「今夜から占いの場所を変えるの。それでせっかくだから、今日からフランシーヌからエリザベスに名前を変えることにしたんだわ。だけどエリザベスは長いから、リズ。リズって呼んで」


「混乱材料が、また増えたぁ」
「あたしはこの手のこと、経験無いではないよ」
「!」
「あたしが、おなべバーやってたとき、惚れられた女がいてさ」
「…なにやってたって?」
「あたしが、おなべバーやってたとき」
「おなべバーって何?」
「女なんだけど、男の格好してる人がやってるバー。おかまバーの逆」
「小林さん、そんなとこいくの?」
「いや、時々乗せるお客さんに、何人かおなべさんがいるから知ってるの。リズさん、いつそんな商売してたの?」
「大学講師とトリマーの間」
「謎、多いなあ」
「そのころ、あたし目当てに通ってくる人妻がいて。もう夢中になられちゃってさ。家庭崩壊寸前。でも、あたしの場合は『職業おなべ』だったから、離婚されても受け入れられないからさ」
「どうしたの?」
「正直に言ったさ。『あたし、こんな格好してるけど、これは商売でさ。男が好きなんだわ』って」
「どうなったの?」
「果物ナイフで脇腹刺された」
「!」
「!」
「ここんとこ。傷跡みる?」
「見ませんよ!」
「だから… ね… 明日香もへこたれずに頑張りな」
「参考にならないですよぉ!」
「お風呂は、だいたい8時には沸かすようにしてます」
「入る順番は? 決まってるんですか?」
「うん。うちの場合は時間が不規則な職業の人ばかりなので、特に決まってはいません。ま、あ・うんの呼吸ってやつかな」
「わかりました」
「たとえ、お風呂が沸いてなかったとしても、シャワーは二十四時間、いつ使っても大丈夫」
「はい…」
「あと、お食事なんだけど」
「えっ、あ、はい」
「うちは一応、賄い付きです」
「そう聞いてます」
「なんだけど、さっきも言ったけど、時間が不規則な人が多いので、時間を決めて食事はしません」
「はい」
「私が、だいたい朝の7時と、夕方の6時に大皿料理とご飯なんかを用意しておきますので、好きな時間にあっため直して、あっちの食堂~つったって大したところじゃないけど~勝手に食べちゃってください」
「逆に助かります」
「で、食べたら、横のノートの『食べた』にチェック! 一回200円。毎月徴収します」
「なるほど」
「食べたら、食器は洗ってしまっといてね」
「わかりました」
「さてと、一休みしますか。座って」
「はい。失礼します」
「お茶、もっと飲む?」
「いえ」
「そう。じゃあ、私は買い物に行ってきますね」
「あ、リズさ…」


「えーっと…」


「…あっちいこうかなあ」


「…僕は、あっちに行くべきだと思うんだ… うん」


「…あっ! なんか眠い! やっぱ非番は眠い!」


「眠い! 眠すぎる! 断然眠いから、ガンガン寝るゾォ!」


「明日香ちゃん」


「ただいま」
「…お帰りなさい」
「いい下宿を紹介してくれて、ありがとう」
「いや」


「賄いがついてるって、すっごくありがたいの。医学部はホラ、時間がないから」
「…」
「作ってる暇ももったいないし。外食は高いし」
「…」
「今日、このあと時間あるんでしょう?」
「…」
「下宿の周り、案内してくれるんだよね」
「…」
「約束したでしょう? 覚えてる?」
「…」


「びっくりしたよね」
「びっくりしました」
「だよね」
「どうして言ってくれなかったんですか」
「ごめんね」
「どうして一言相談してくれなかったんですか」
「…相談か…」


「ごめんなさい」
「ひどいですよ」
「…」
「ひどいですよ。勝手に!」
「…」
「…勝手にそんなことしちゃうなんて…」


「やっぱり、一つ屋根の下に暮らすのは、抵抗ある?」
「…そんなことないけど」
「そんなことないけど?」
「そんなことないです」
「…そう… だったらよかった。あたし、荷物の整理してくるね。本格的に荷物が届くの、あしたなんだけどさ」


「浩美先輩!」
「なに?」
「歩きやすい靴、持ってきてます?」
「スニーカーあるけど。なに?」
「一休みしたら、スニーカー持って、下りてきてください。下宿の周り、案内します」
「…ホントに?」
「…約束だから」
「…わかった。ありがとう」

○同日・夕方

「ああ、もうこんな時間だわ。ええっと… 小林さんは、まだ寝てる。リズさんは… もうすぐ仕事っと。明日香ちゃんと浩美ちゃんはどこ行ったんだろう」
「あたし、ちょっと寝ちゃった」
「そりゃ、しょうがないですよ。これから夜遅くまでお仕事なんですから」
「浩美と明日香は?」
「さあ… あたしが買い物から帰ってきたら、もういなかったみたいですね」
「早速デートかな」
「どうなんでしょう、それは」
「やっぱり、女同士には抵抗ある?」
「というか、なんかあたしまだ混乱して。あ、お食事できてますから、いつでも」
「それにしても、あの浩美って子、いい女だわ」


         〜③に続く
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