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会話版〜ホントウの間柄③ [舞台]

②の続き


○同日・夕方

「ああ、もうこんな時間だわ。ええっと… 小林さんは、まだ寝てる。リズさんは… もうすぐ仕事っと。明日香ちゃんと浩美ちゃんはどこ行ったんだろう」
「あたし、ちょっと寝ちゃった」
「そりゃ、しょうがないですよ。これから夜遅くまでお仕事なんですから」
「浩美と明日香は?」
「さあ… あたしが買い物から帰ってきたら、もういなかったみたいですね」
「早速デートかな」
「どうなんでしょう、それは」
「やっぱり、女同士には抵抗ある?」
「というか、なんかあたしまだ混乱して。あ、お食事できてますから、いつでも」
「それにしても、あの浩美って子、いい女だわ」
「ええ?」
「ねえ。思わない?」
「どうなんでしょう。かわいいとは思うけど」
「かわいいなんてもんじゃないよ。かなりの上玉だよ、あれは」
「そうですねえ」
「あんたなんか、完全に抜かれてる」
「何が? 何が抜かれてるんですか?」
「具体的に言われて、ショックを倍増させたいの? いいよ、まずはおっぱい。おっぱいがあんたの場合…」
「ゴラァ!」
「いけね。元ヤンだった」
「でも、確かに元は男にしては、すごい美人ですよね」
「あんたもそう思ってるんだ」
「何を?」
「元男って」
「えっ、ちがうんですか?」
「もしも、明日香と浩美って子が一緒に出かけたんだったら、まずいことが起こると思うな。うん」
「まずいことって?」
「帰ってくればわかる。たぶん」
「ただいま!」
「噂をすれば影だ」


「ただいま」
「お帰りなさい。どこに行ってたの?」
「その辺をブラブラ」
「浩美ちゃんは?」
「一緒だよ。先輩にここらを案内してたんだから、一緒に決まってるじゃない」
「何怒ってるの?」
「別に」
「食事、出来てますよ」
「うん」


「やっぱりな」
「何ですかね」
「たぶん、あたしの予想が当たってるんだと思う」
「どんな予想?」
「あたしは占い師だよ。忘れたの? 未来が見えるの」


「ただいま」
「お帰りなさい」
「どこに行ってたんですか?」
「明日香ちゃんが、下宿の周りを案内してくれるって言ってくれて、ちょっと歩いて駅の方まで行ってきたんです」
「ああ、そうなの」
「駅、わりと大きいんですね。人が沢山いたんで、びっくりしちゃいました」
「そう?」
「さっきはすぐに車に乗っちゃったから気づかなかったけど、飲む所も沢山あるし」
「何かあったの?」
「え?」
「なんか、明日香ちゃん。機嫌悪そうに二階に上がって行ったんだけど」
「…そうですか」
「なんかあったの?」
「別に、大したことは」
「浩美、あんたさ」
「はい?」
「ナンパされたでしょう」
「えっ」
「されたでしょう、ナンパ」
「あ、ハイ、まあ」
「明日香と二人で歩いてて、男に声掛けられた?」
「はい」
「ここいらはね、チャラい男が多いので有名なんだよ、特に駅周辺は。何回声掛けられた?」
「7回… ぐらいかな、ハハ」
「そのうち、あんたが声を掛けられたのは何回?」
「…もういいじゃないですか、そんな話は」
「何回? あんたの方が、声掛けられたの、7回中」
「それは…」


「あたしは、おためごかしは嫌いだよ。正直なやつがスキ」
「…7回です」
「ほーらやっぱり思った通り! 正直だね。結構結構」
「何、どういうことですか?」
「つまり、明日香と浩美が並んで歩いてて、男が声をかけたのさ、7回連続で浩美の方に」
「うわぁ… そういうことか」
「明日香は一度も無し。だよね」
「あ… はい」
「うわあ…」
「おなじ女としては、ま、敗北感にさいなまれるわな」
「まあ… ね」
「しかも、ただの女じゃない。最近女の体を手に入れたばかりの相手だ」
「そんな、あけすけに。ごめんなさい浩美ちゃん」
「いえ。本当のことですから」
「こういう人なのよ、リズさんて」
「はい」
「で、うれしかった? あんた」
「へぇ?」
「うれしかったでしょう。男に声かけられて」
「ええっと…」


「うれしかった… です」
「えらい! あんたホント正直だ! あたし一気にあんたのことスキになった」
「気にはしてたんです! あたしにばかり声かけてくるなあって。明日香ちゃん、気を悪くしてないかなあって。でも、初めての経験で… なんかちょっと… うれしくて…」
「たぶん、あんたニヤけてたと思うよ」
「えっ?」
「男にナンパされて、ついていく気はなかっただろうけど、まず確実に、ニヤけてたと思うよ」
「ホントですか?」
「しょうがないよぉ。あんただって、そんな思い切った手術するからには、男にナンパされてみたいって気持ちだって、どっかにあったでしょう」
「…なかったといえば… ウソかなあ…」
「そうだよ、それでこそ女だよ」
「そうですか?」


「あー、おなか減った」


「何?」
「大変だったね。明日香ちゃん」
「何が」
「まあ、もっとランクの低い女と歩いてたら、声かけられるのは、あんたの方だから。あんたそれ自体は、そんなにひどくはないから」
「だから、何の話ですか?」
「今回は、相手が悪かった。気を落とさずに頑張りな」
「あーっ…」


「あー、もしかして。みんな聞いたんだね。浩美先輩がナンパされたってこと」
「『浩美先輩、だけが』ね」
「それで、もしかしてあたしがムッとしてると思ってる?」


「ちょっと! 冗談! そんなわけないじゃん! やだなあ! そんなわけないじゃん!」


「ホントだよぉ! あたしの大好きな浩美先輩が、大人気になって、どーしてあたしがムッとするのよ。冗談じゃないよぉ。むしろ誇りよ。あたしの誇り」


「ちょっと、やめてよぉ。ホントにさあ。波子さんだって、『大変だったね』って何よぉ」
「明日香ちゃん。もしもあたしがニヤけてて、気に障ったんだったら、ごめんね。でも、あたしツイうれしくてニヤケちゃったの…」


「浩美、そこ正直でなくていい」


「あーあ、結構寝たぁ…」


「おお、おっす」
「おっす」
「何。何ムッとしてるの。まだ酒残ってるの?」


「ああ、どうもこんばんは」
「こんばんは」
「いやあ、見れば見るほど、美人だ。浩美さんて。これは男はほっとかないわ。ねえ! みんな、そう思うでしょう? オレがあと十歳若かったら、絶対にナンパするな」
「あんた、寝起きに口が軽くなるクセ、あいかわらず直ってないね」
「えっ… 俺、悪いこと言った?」
「あたしが歩いてたら?」
「え、明日香ちゃんが?」
「ナンパする?」


「するよぉ! ガンガンするよぉ! 明日香ちゃんも可愛いじゃない」
「あんた、芝居、下手」
「えー… 下手だった? だってさあ、急だったんだもんさあ」

○同日・夜

「食事の時間が5人ともそろうなんて珍しいね」
「だな」
「ふう。今日もうまかった」
「あいつ、料理の腕は間違いないな」
「うまかったでしょ」
「はい。これから毎日、食事が愉しみです」
「ついつい食べすぎちゃって、太っちゃうのが玉にきずなんだよなあ」
「お茶が入りましたよ」
「今、噂してたんだよ」
「何を?」
「あいかわらず、波子さんの料理はうまいって」
「あらあら、それはありがとうございます。浩美ちゃんは? お口にあいました?」
「そりゃあもう」
「よかった」
「だけど、なんであんな料理の腕を持っていながら、出戻って来たのかねえ」
「またその話?」
「男は、料理でつないどけってのが、定説なんだけどねえ」
「つなぎきれませんでした」
「ねえねえ、明日香と浩美が最初に会ったのはいつなのよ」
「あれは… えーっと…」
「あたしが中学一年の時。夏休みが終わったころ、浩美先輩が二年生で転校してきたんだよ」
「あ、そうだね」
「なんか、柔道部にすごい美男子が入部したって、クラスで評判になっちゃって、あたし友達と、道場を覗きに行ったんだよ」
「かっこよかった?」
「かっこよかったよぉ!」
「はずかしいよ」
「ほら、柔道部なんてもっさりしたジャガイモみたいな連中の集まりじゃん」
「まあな。中にはカボチャもいるし」
「あ、いた、カボチャに似てるヤツ」
「ああ! いたね!」
「国松!」
「ゴツゴツした顔して、顔色も黒いっていうよりも、どこか深ミドリって顔色してて」
「いいヤツだったんだけどね」
「で、そんな八百屋の店先みたいな柔道部に、一人だけタカラジェンヌみたいな男子が柔道着着て立ってたんだよ。後光が差してるみたいな?」
「またまた、言い過ぎだよ」
「いや、マジで。で、また浩美先輩が強いんだ」
子供の頃から、ずっとやってたからね」
「ジャガイモとカボチャをちぎっては投げ、ちぎっては投げ」
「あんまり強い部じゃなかったから」
「どうしてまた、柔道部なんか選んだの」
「父親に勧められて。父がやってたんですよね。で、『お前はどこか女々しいところがあるから、柔道やれ』って」
「どこか女々しいところって、ねえ」
「ねえって?」
「娘のそーゆーところ、判ってないんだ。おとこ親は」
「まあ、でもまだその頃は、父にとっては息子だったから」
「ってところが、判ってないんだな」
「それからは、もう柔道部の追っかけよ。試合には必ず出かけたし」
「来てくれたよねえ」
「行ったよ」
「だけど、一つだけ問題があったんだよなー」
「問題? 応援で?」
「はい」
「何?」
「明日香ちゃんと、その仲間。4人ぐらいいたかな」
「5人」
「5人か。ともかく、あたししか応援しないんですよ」
「うわあ、ヒイキ」
「ひどいえこヒイキでしたよ」
「どんな感じで?」
「浩美先輩の試合が始まるまで、何もいわずにジーッと座っててね」
「うん」
「浩美先輩が、畳に一歩上がったとたんに、5人で『浩美先輩、キャー』って」
「それだけならいいんですけどね」
「なに、もっとひどいのアリだった」
「なに、そんなのありましたっけ」
「あたしがだいたいラストに出るんですけど」
「大将ってやつか」
「そうなんですけど、あたしの前に出てくるヤツを、逆応援するんですよ」
「あ、そうだった。浩美先輩が早く見たいもんだから、『早く負けろ!』『頑張ってんじゃねー!』とか」
「ひでぇ」
「誰? 逆応援されてたの」
「っていうか、罵り?」
「えーっと、先鋒、次鋒、中堅、副将、大将って順番で出るんですけど、副将の子ですね」
「大抵、さっきも名前がでた、カボチャの国松だったね」
「そう。国松君」
「あいつ、強くもないのに頑張るんだもん」
「だけど、いっつも明日香ちゃんに罵られて、国松いつも泣きながら試合してたんだよ。『なんで負けろっていうんだよぉ』って」
「うっそ。アレ、泣き顔だったの? 分かんない顔だなあ」
「中坊は残酷だな」
「二人は高校は?」
「それよ、それ」
「なによ、なに」
「浩美先輩、難しい県立にパッと受かって行っちゃったんだもん」
「結構頑張って受験勉強したよ」
「残されたこっちが大変。なにしろ、あたしバカだったからさ」
「だろうね」
「はい?」
「勉強した?」
「もう、猛勉強しましたよ。一緒の高校行きたさで。バカはバカなりに。あれは人生で一生分勉強したな、うん」
「でも、合格してて学校で会ったときにはびっくりしたよ」
「内緒で受験しましたからね。落ちたときかっこ悪いし」
「で、高校時代も柔道部の応援?」
「もっと近づきたいと思って、入学してすぐ女子柔道部作っちゃったんです」
「やるなあ」
「浩美先輩に稽古つけてもらえば、どうどうと抱きつけるし、と思って」
「ま、そんな理由だわな」
「抱きつけた?」
「それが全然」
「なんで」
「先輩、強すぎるんですよね。組んだ! と思ったら、もう投げられちゃうんだもん」
「へえ、とてもそんなに柔道が強そうには見えないんだけど」
「柔道は力じゃないですから」
「なるほど」
「浩美先輩、高校でも人気あったよね」
「そうだったかなあ」
「バレンタインとかスゴかったじゃないですか」
「まあ、確かにね」
「どのくらいチョコもらったの?」
「えーっと… 毎年、五十個ぐらいあったでしょう」
「あったかな」
「ホントに? オレなんか、高校時代はゼロだよ」
「でも、学校で一番じゃなかったんですよ」
「うそ。もっともらうヤツいたの?」
「明日香ちゃん、覚えてるでしょう?」
「ああ、ビー部の小暮でしょう?」
「そう。小暮君」
「ビー部ってなに?」
「ラグビー部のことです」
「ああ」
「なに、かっこよかった」
「まあね。でも浩美先輩とは全然タイプがちがうの。いわゆる、汗くさいタイプ?」
「えー、かっこよかったじゃない! 小暮君。チョコもあたしよりずっと沢山もらってたし」
「そう… だったけど」
「明日香ちゃん、知らなかったと思うけど、あの頃、小暮君、明日香ちゃんが好きだったんだよ」
「うそ!」
「ホント。あたし小暮君と同じクラスだったから。直接相談されたから、間違いない」
「マジで?」
「『お前んところの柔道部の女子に野本明日香っているだろ。紹介してくれねーかな』って」
「ちょっともったいない。あ、でも、紹介してくれなかったじゃないですか」
「だって、明日香ちゃんはあたしに夢中なの知ってたし。それに…」
「なに?」
「あたしの初恋の人なんだよね。小暮君」


「あたし、なんだか悔しくてさ。焼き餅焼いちゃった」
「そうなんだ」
「あー! こんなこと打ち明けられる日がくるなんて、思わなかったァ!」


「浩美先輩の初恋の相手が、小暮…」


「ああ、まだ混乱する」
「そう?」
「だって、当時浩美先輩は、学ラン着てたんだよ。学ラン。そのイメージだもん」
「ああ、そうか」
「そのイメージで考えてよ。初恋が小暮って」
「今、こうやってみてると、全然普通の話なんだけどね」
「それで、浩美ちゃんは医学部に合格するんだ?」
「はい」
「もう無理じゃない。もう追っかけられないじゃない。あたしが医学部に合格するなんて、絶対に無理じゃない」
「そうだね」
「そりゃ不可能だ」
「そんなにあっさり認められると、カチンとくるけど」
「で、どうしたの」
「で、勇気出してメアド聞いて、メール出しまくり」
「うるさくなかった? 迷惑メール」
「迷惑ってなによ」
「全然。あたし、明日香ちゃんには、いつも元気もらってたし」
「で、手術は何年前?」


「何年前にやったの? 最初の手術」


治療を始めたのは、留学する直前に、日本で先生に相談して。埼玉にこの病気に詳しい大学があるんですけど、留学が決まってたから、ボストンの病院紹介してもらって。だから3年前ですか」
「手術が3年前か」
「ちがいます。手術するまでが長いんです。まず精神的に確かにトランスセクシャル… あ、体の手術を希望する性同一性障害のことですけど、間違いなくそうか、じっくりカウンセリングするんです。中には、女装して女性の振りをして生活するだけで満足できる人もいるので」
「なるほどな、そりゃそうだ」
「それからホルモン療法があって、そのあとリアルライフテストっていうのをやるんです」
「リアルライフテスト」
「自分のなりたい性別になって実際に生活するんです。あたしの場合は女性だったから、手術をする前に女性として生活してみるんです」
「どのくらい?」
「だいたい、一年ぐらいかけます」
「一年!」
「長いねえ!」
「はい。でも、手術しちゃったら、もう絶対に後戻りはできませんから、じっくりやるんです。実際、リアルライフテストで、やっぱりやめるって人も多いんです」
「で、手術は」
「去年ですね」
「今は、全部終わった」
「全部終わってます。今は、普通に生活できます」
「自分の体、気に入ってる?」
「はい。もうすごく気に入ってます。毎日鏡に映して、見てます」
「よかったね」
「はい」


「明日香ちゃん、ごめんね。こんな話して」
「ぜーんぜん!」

○数日後・夜

「あんた、何聞いてんだ?」


「聞こえないのか?」

                      〜④に続く
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