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会話版〜ホントウの間柄④ [舞台]

③の続き


○数日後・夜

「あんた、何聞いてんだ?」


「聞こえないのか?」


「あんた、こんなの聞いてるの?」
「ええ。和ユーロ。いいでしょう」
「あんた、気持ち悪いね」
「リズさん、仕事は?」
「もうすぐ出る」
「腹減った。飯食おうかな。出来てます?」
「出来てるよ」
「みんなは?」
「明日香は部屋にいるよ」
「浩美ちゃんは?」
「波子と銭湯行った」
「え、どこ行ったって?」
「銭湯」
「お風呂壊れたの!」
「ちがうよ。浩美が波子に『銭湯に連れて行ってください』って頼んだんだよ」
「なんでまた」
「分からないかな」
「分からないって?」
「浩美みたいな人間が、どんなことを考えるのか」
「分からないです」
「ずーっと思ってたんだよ。銭湯に行きたいってさ」
「うん… で、なんで?」
「あんたはずーっとピンと来ない人生を送ってなさい」


「あ、浩美。お帰り」
「ただいま」
「波子も、お疲れさん」
「……」
「いいお湯だった?」
「はい! すっごく気持ちよかった! あたし、初めてなんです。銭湯行くの」
「そう」
「えっ、初めてなんだ」
「はい!」
「オレなんか、風呂付きのアパートは大分たってからだったけど、そういう時代なんだね」
「時代のせいじゃないよ、バカ」
「え?」
「ねえ?」
「はい。あたし、前の体だったときは、男湯に入らなきゃならないから、ヤだったんです」
「ああ、なるほど」
「裸の男の人見るのもイヤだったし。自分の裸をみられるのもイヤだったし」
「そうか。そうだよね」
「あたしちょっと荷物置いてきます」


「波子さん。どうしたの?」
「…うん…」
「やっぱりか」
「やっぱりって?」
「すごかったか」
「…すごかった… アレはすごい」
「何が?」
「どんな風にすごかった?」
「完璧ってああいうことを言うのかも知れない」
「そうか」
「だから、何がすごかったんだよ」
「周りの反応はどんな感じだった?」
「それもすごかった。あたしはね、浩美ちゃんと並んで脱いでたんです」
「うん」
「で、隣で浩美ちゃんが脱ぎ始めて、スッ… スッ…と洋服が一枚ずつ落ちていくに連れて、出てきたんです」
「え? 何が出た」
「完璧なヌード!」
「そうか。やはりそこまで出来てたか」
「そんなにキレイだったの?」
「キレイなんてもんじゃないですよ。ああいうのを完璧な女体って言うんじゃないでしょうか。ああいう人が銭湯に行っちゃいけないと思うな」
「マジで?」
「まっしろな肌。豊かな胸。絞り込んだウェスト。形のいいヒップ。長い足」
「一言で言うと?」
「パーフェクト」
「今、想像してるな、小林」
「ごめんなさい。してます」
「まあ、しょうがない。今回は許す」
「あんなにキレイになるなら、あたしもいじっちゃおっかなあ」


「浩美は元がいいから、ああなったんだぞ」
「そうそう。それがいいたかった。そんなにスゴかった?」
「あのね。脱衣所にいたお客さんの、脱いだり着たりする手が、全員止まったんですよ」
「すげえ」
「みんな目をまんまるにして、浩美ちゃんの体を見つめちゃって。あたしもすっかり脱ぐの忘れちゃって、下、履いたまま洗い場に入ろうとしちゃって、慌てて脱いで」
「波子さんのはあんまり想像したくない」
「なんだ?」
「ごめんなさい」
「また、浩美ちゃんが、銭湯初めてだって聞いてたのに、堂々としてて、あんまり体とか隠さないで、オケとタオルをもって、ガラッと扉を開けて洗い場に入ったんですよ。そしたらね、洗い場にいたお客さんがパッと浩美ちゃんの体をみて、こうグッと、グッとのけぞったんですよ。あたし、みてましたから。全員が見たとたんに、グッと、こうやってのけぞったんです。ホント」
「そうかぁ。そこまでかぁ。クソォ」
「なんでクソなんだ?」
「なんとなく」
「そのあとも、浩美ちゃんは全然堂々として、体洗って、シャンプーして、湯船に入って。その間、ずーっとニコニコしてて」
「よっぽど入りたかったんだ」
「『楽しい楽しい』の連発で」
「よかったなあ」
「まあ、よかったんですけど、ああそうそう。かわいそうな人がいました」
「なに、かわいそうな人って」
「洗い場で、浩美ちゃんが座ったところのとなりにいた女の人。三十ぐらいの主婦かな。普通の体してるんですよ。ごくごく一般的な。そんなにデブでもなかったし。でも、浩美ちゃんにとなりに座られちゃった」
「ああ、それはつらいわ」
「こっちはね。比べるつもりはないけど、並んで座って同じことしてるわけじゃないですか。みると、どうしても比べちゃうんですよ。浩美ちゃんと、体」
「そうか」
「誰も何も言ってないんですよ。だけど、みてる人の目線をみてると、やっぱり比べちゃってるんです。あるじゃないですか。何も言わなくても表情で」
「あるな」
「その人も、だんだんと周りからのその目線を感じ始めて、徐々にいたたまれなくなって行ったみたいで」
「どうなった」
「そのまま、湯船に入らず、シャワーだけ浴びて出てっちゃいました。その時ね、あたし顔みたんですけど、涙ぐんでました。ああいうのをまさに、『針のむしろ』って言うんでしょうね」
「さらし者だもんな」
「とんだとばっちりだよ」
「そのあとは、浩美ちゃんが動くと、すーっとみんな離れるようになっちゃって」
「モーゼの十戒かよ」
「あたしも、並ぶのイヤだったんだけど、そういうわけにも行かないじゃないですか。もう、『比べるなら比べろ』って開き直って。横に座っちゃった」
「人騒がせな体だな」
「そうなんだ…」
「小林、充分想像したか」
「まあ、想像したんだけど。別のことも想像しちゃった」
「なにを」


「やだ! はずかしい!」
「ちがうよ!」
「ちがうの。じゃあなに?」
「どんな感じなんだろうかなあって」
「なにが」
「自分の惚れてた男がさ。いきなり女になっちゃって。しかもだよ。どんどんと自分よりいい女になっていくんだよ」
「まあな」
「明日香ちゃんも、決して不細工じゃないんだけどなあ」
「あーあ、おなか減った。ねえねえ、今日の晩御飯なに?」


「なに?」


「明日香ちゃん。あたしも一緒に食べていい?」


「どうかしました?」
「なによ」
「小林」
「はい」
「その想像は、したら明日香が可哀相だわ」
「そうなんですけどね」
「想像? なんの想像?」
「死んでも言えない」
「あたし、仕事行ってくるわ」
「オレ、風呂入ってくるわ」
「なに、なんかあったの? (浩美に)なんかあった?」
「さあ… あ、明日香ちゃん! あたしさあ、波子さんに銭湯に連れて行ってもらったンだよ」
「マジで? 波子さん、銭湯なんてあったっけ?」
「ほら、スーパーを超えてちょっと行ったところ。入り口がコインランドリーの」
「ああ、あそこか。あるな」
「今度明日香ちゃんも一緒にいこうよ。気持ちよかったよぉ」
「えっ」


「えー、どうしようかなあ。一応、浩美先輩は浩美先輩だからなあ。裸見られるの、ちょっと抵抗が」
「そうかあ。残念。ああ、おなか空いた」


「やっぱりさあ、いくら女になったからって、やっぱり裸見られたら、ショックだよねえ」
「世の中にはさ」
「ん?」
「裸を見られるよりも、裸を見る方がショックってことも起きるんだよね」
「どういう意味?」
「明日香ちゃんには、あのつらさは味わわせたくない」
「え?」
「あたしもご飯食べようっと」


「なーんか独りぼっちな気がするんだけど、気のせい?」


○数日後・夜

「だから、しょうがないじゃない。土日が挟まってたんだから… え?… だけど、一日二日の遅れぐらいはさあ、ちょっと大目に見てもらわないと… 行ったさ… 金曜日にね。でも振込しても、実際にそっちに届くのが週明けになっちゃったってことだから… うん… だからわかってるって…」
「ああ、浩美ちゃん」
「小林さん、どうかしたんですか?」
「うん。ちょっとね」
「ちょっと?」
「プライベートなことだから、言っていいのかどうか」
「はい… はい… 今度から気をつけますから! まったく、なんだよ。一日二日遅れたぐらいでさあ」
「どうかしたんですか?」
「別れたカミさんだよ。養育費が遅れてるって文句言ってきてさあ」
「ああ」
「言って全然いいんだ」
「え? ああ、別に隠すほどのこともないんだから。オレ、昔結婚してて、子供もいてさ。養育費払ってるわけ」
「あ、はい」
「だけど、土日が挟まっててさあ、金曜の午後に振り込んだら、届くの月曜になっちゃうわけよ。なのに『約束は金曜日のはずだった』とか言っちゃってよぉ」
「そうなんだ」
「『今度からは、絶対に許しませんからね!』だってよ。離婚してからもしかられるとは思ってなかったよ。な?」
「そうですね」
「ああ、むしゃくしゃする。なあ、波子さん。アレやろうぜ、アレ」
「ええ? アレですか?」
「そうそう。最近やってなかったじゃない。溜まってるだろ?」
「なんなんですか? アレって?」
「あのね、この田中荘に伝統的に受け継がれている、儀式みたいなもんなのね」
「儀式?」
「そう」
「日頃たまった鬱憤をみんなに聞いてもらって、鬱憤バラシをするんだ」
「題して、田中荘名物バカヤロウごっこ。ちょっと待ってて」
「バカヤロウごっこですか?」
「ああ、これが結構スカッとするんだよ」


「これ」
「ぬいぐるみ?」
「憎たらしい顔してるでしょう。最近自分が腹の立ったことを思いっきり怒鳴って、このぬいぐるみをどこかに思いっきり投げつけるの」
「へえ。面白そう」
「一人でやると、だんだん自己嫌悪になっていくんだけど、みんなとやると、スカッとするんだよ」
「ただいま」
「ああ、明日香ちゃんお帰り」
「お帰り」
「今日は遅かったね」
「そうだよ! なんか雑用一杯押しつけられてさあ。大した番組も作れねえくせに。あのディレクター。なにやってるの? あ! やるの?」
「やる」
「今から?」
「今から」
「マジで! ちょうどいいや溜まってたんだ。やろうやろう」
「浩美ちゃんもやるでしょ?」
「あ、はい」
「見本見せるから、見てて」
「まず誰やる?」
「オレやる」


「…」
「…」
「…」
「たかが一日二日なあ!」
「なあ!」
「養育費が遅れたからってよう!」
「よう!」
「グダグダぬかしてんじゃねえ! バカヤロウ!」
「そうだ!」
「おっしゃるとおり!」
「んにゃろー」
「と、こうやるの。わかった?」
「あ、はい」
「次は、あたしね」


「…」
「…」
「…」
「おい! 八百源の親父!」
「親父!」
「あたしの顔を見て『奥さん奥さん』言うのやめろ!」
「やめろ!」
「あたしは2年前に奥さんじゃなくなったんだよ! バカヤロウ!」
「そうだ!」
「だいたいあの親父は口が軽すぎる!」
「浩美先輩も、同意して」
「あ、うん。その通り!」
「そうそう。これ、みんなの同意の言葉が大事なんだよ。共感ていうの? 安上がりで共感が得られる」
「ふーん」
「あたしの番」

「…」
「…」
「…」
「あのな、鈴木!」
「鈴木!」
「てめえパーソナリティーにばっかおべっか使って、AD締め上げるのやめろ!」
「やめろ!」
「テメエに能力がねえのは、AD仲間、みんな知ってるんだよ! バカヤロウ!」
「鈴木が悪い!」
「確かにあいつは無能だ!」
「知ってるんですか? 鈴木って人」
「知らないけど、いいの」
「ああ」
「はい。浩美先輩の番」


「なに言おう…」
「なんでもいいのよ」
「なんかあるでしょう」
「最近のことじゃなくてもいいんだよ。ずーっと思ってて口に出せなかったことでも」
「そうだなあ… あ、アレにしよう」
「よっしゃ来た」
「おい! そこのブス!」
「!」
「!」
「!」
「お前、ブスなのになんで女なんだよ! 何の苦労もなく女やってんじゃねえよ! バカヤロウ!」


「…そ、そうだ! その通りだ…」
「女として、気がつかなかった」
「あたし、なんか、ドキッとしちゃった」
「気持ちイー! ハイ」
「月に一回ぐらいはなあ!」
「なあ!」
「子供に会わせろ! バカヤロウ!」
「ハイ」
「あ、あたし」
「…」
「…」
「…」
「おい、スーパーのシンエツ!」
「シンエツ!」
「一人一個って言っときながら、こっそり並び直して何本もシャンプー買ってるやつは他にもいるんだよ!」
「いるんだよ!」
「あたしばっかり発見するのは、やめろ! バカヤロウ!」
「おい、大久保孝!」
「大久保孝!」
「てめーパーソナリティー名乗るなら、フリートークはちゃんと準備しとけ!」
「しとけ!」
「実は聞いてて笑ったこと一回もねーんだよ! バカヤロウ!」
「あたし、行きますね」
「…」
「…」
「…」
「おい! 小学校の時のクラスメイトたち! トイレのとき、好きで個室ばかり入ってたんじゃないんだよ! 見るのがイヤだから、立ちションできなかったんだよ! それなのに、『あいつ、いつも個室に入ってる。いつも下痢なんだぜ』とか噂流して、ゲーリーなんてあだ名つけるんじゃねえ! バカヤロウ!」


「そうだ!」
「気持ちイー。あのこれ、順番にやらないとダメなんですか?」
「あ、続けてやっても別にいいんだよ」
「あ、ホントですか? いいですか?」
「…」
「…」
「…」
「なんで男勝りの女の子はチヤホヤされて、女っぽい男は白い目で見やがるんだ! バカヤロウ!」
「そうだ!」
「あたしのこと、ハンサムなんて言ってんじゃねえ! 全然うれしくないんだよ! バカヤロウ!」
「バカヤロウ…」
「おい! レンタルビデオ屋! つーか、会員証のある店全般! いちいち入会申込書の男・女の欄に丸をつけさせるのやめろ! そのたびに悔しい思いをしてる人間だっているんだ! バカヤロウ!」
「バ、バカヤロウ…」
「人がなあ、プロポーション保つのに、どんだけ筋トレしてると思ってるんだ! なのにのうのうと『ダイエットしないとねー』なんつって、何の苦労もなく女やってるそこのブス! お前なんかな、お前なんかなぁ!」
「…」
「…」
「…」


○次の日・昼

「ふーん。夕べそんなことがあったんだ」
「そうなんですよ。あまりの剣幕で、あたし驚いちゃって。お茶どうぞ」
「酔っぱらってたの? 浩美」
「いえ、シラフのはずですけど」


〜⑤に続く
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