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会話版〜ホントウの間柄⑤(最終回) [舞台]

○次の日・昼

「ふーん。夕べそんなことがあったんだ」
「そうなんですよ。あまりの剣幕で、あたし驚いちゃって。お茶どうぞ」
「酔っぱらってたの? 浩美」
「いえ、シラフのはずですけど」
「あの子も、ずーっと長い間、ルサンチマン抱えてきたんだねえ」
「ルサ? え?」
「ルサンチマン。積年の恨み、ねたみってヤツ」
「そうなんでしょうねえ」
「どんな単語が飛び出した?」
「え?」
「バカヤロウって言うとき、どんな単語が多かった?」
「そうだな… あ、一番多かったのは、アレかな」
「なに」
「『何の苦労もなく女やってるヤツ!』って言葉」
「やっぱ、それか」
「なんか、あたし自分のこと言われてるみたいで、なんかショックでした」
「だよな。これまでそんなこと考えたこともなかっただろう? あんたも」
「だけど、浩美ちゃんがこれまでどんなこと考えて生きてきたのかって思うと、あたしなんだかグッと来ちゃって」
「ああそう」
「ほら、浩美ちゃんて、そんな恨みつらみなんか持ってないような感じするじゃないですか。一見クールで。でも、内側にはあんなにもドロドロした物を持ってたんだと思って」
「人間誰しもね。なんかあるさ。それなりに」
「リズさんもあるんですか? ドロドロしたもの」
「あたしはドロドロが服きてるようなもんだよ」
「そういえばそうですね」
「どういう意味よ」
「すいません」
「あのさあ、謝っちゃうとさあ、逆に傷つくってこともあるんだからね」
「え?」
「確かにそうだって認められたッてことになってさあ」
「あ、はい」
「で、明日香は? どんな感じ?」
「どんな感じって、なにがですか?」
「浩美に対して、どんなふうに接してる?」
「どんなふうって、別に普通ですよ。会った日はちょっとショックを受けてたみたいだけど、そのあとはなんでもないみたいに、浩美ちゃんと話してるし」
「あんた気がついてないんだね」
「なんですか?」
「明日香は、こだわってるんだよ。浩美の手術のこと」
「そりゃ、こだわってないっていえばウソになるだろうけど」
「並のこだわりじゃないよ。スゴいこだわりだよ。ただ、本人はまだそれには気づいてないけど」
「そうですか?」
「あんた、明日香がまだ一回も浩美の目をちゃんと見て話してないこと、気がついてる?」
「え、ホントですか?」
「ホントだよ。一回も目を見てしゃべってない」
「そうだったかなあ…」
「そうなんだよ」
「目を見たくないんですかね」
「見たいけど、見れないってほうかな」


「浩美ちゃん、その事に気がついてるんですかね」
「どうかなあ… ただ、意外と勘のいい子だからね」
「ふーん」

「リズさん、何占ってるんですか?」
「ちょっとね」
「ちょっと?」
「あ、出た」
「なにが出たんですか?」
「これは、浩美、気がついてるな。どーも…」
「ただいま」
「あ、ご苦労さま」
「たまたま近くで客が降りてさ」
「食事はします?」
「うん。せっかくだから、昼飯食べちゃおうって… あ、そうそう。明日香ちゃんは?」
「今日は仕事夕方からって言ってたけど、早めに出かけましたね。買い物でも行ったんじゃないですか」
「やっぱりそうか。アレ、明日香ちゃんだったんだな」
「みかけたんですか?」
「うん、新宿流してたとき、アレ、明日香ちゃんかなと思った子が歩いてて。そうかあ。明日香ちゃん、浩美ちゃんを吹っ切れたんだ」
「なに、どういうこと?」
「男と歩いてたんだよ。すっげーかっこいい男とさ」
「男?」
「そう。黒いジャケット着て、サングラスしてる男。腕組んで」
「ふーん。誰だろう」
「男ねえ…」
「うん」


「あたし、ちょっと寝てから仕事行くわ」
「おやすみなさい」


○同日・夜


「だれだ! 貴様!」
「あ、あの、いや」
「この野郎!」
「あの、いや、だから… エイ!」
「痛てえ!」
「あ、ご、ごめんなさい!」
「え! 誰? ……あ、浩美ちゃん… 小林さん!」
「痛てえ… あっ、浩美ちゃんだったのか!」
「ごめんなさい。ついとっさに、あたし」
「タオル冷やしてきます」
「ああ、痛てえ」
「ごめんなさい」
「いや、いいんだけど。なんで浩美ちゃん、そんな格好」
「…はい」
「あーっ、そうだ! 昼間、明日香ちゃんと歩いてなかった?」
「あ、はい」
「やっぱりそうかぁ。浩美ちゃんだったのか、あのハンサム。…あのいや、ごめん」
「いえ」
「ハイ、タオル。冷やして」
「うん… ホントに柔道やってたんだね」
「はい」
「何段?」
「二段です」
「やっぱり有段者か。切れ味が全然ちがったもん」
「すいません」
「それにしても二段か。すげーな」
「父が、絶対にやれって、強制して」
「どうしたの浩美ちゃん。その格好」
「はい」
「昼間言ったじゃん。明日香ちゃんと歩いてた男がいたって。あれ、浩美ちゃんだったんだよ」
「ああ、そうなの? なんでそんな格好で?」
「実は…」


「言いにくいなら、別に無理に言わなくてもいいけど」
「明日香ちゃんに頼まれたんです」
「明日香ちゃんに?」
「なにを頼まれたの」
「あのう…」
「うん…」


「明日香ちゃんに言われたんです。昔から、ずーっと夢に描いてきたことがあったって」


「浩美先輩と、一緒に腕を組んで街を歩いて、映画を見に行くのが夢だったって」


「一回だけでいいから、男の格好をして、その夢をかなえてくれないかって」


「ちょっと考えたんですけど、あたし『うん、いいよ』って言って。それで、あたしもう昔の服は全部処分しちゃってたから、ユニクロに二人で行って」


「男物の服を買って、着替えて… 歩いたんです。腕を組んで」


「それで、二人で映画を見て、喫茶店でお茶を飲んで、明日香ちゃん、夕方から仕事だからって別れて」
「え、でも、別れたの夕方でしょう? こんな時間までどこでなにやってたの?」
「はい… なんとなく、歩いたんです。新宿からブラブラと、渋谷の方まで。明日香ちゃん、喜んでくれたのかなあとか思って。でも、いまさらこういう格好は、やっぱりちょっと抵抗があって…」
「もともと着てた服は?」
「新宿のコインロッカーに入れちゃったの忘れて、歩き始めちゃって」


「すれ違う女の子が、何人も振り返るんだけど、そういうのあたし、もうヤで。顔を伏せて… 渋谷に着いたら、ビルの脇で、ちょっと行列が出来てて、『なにかなあ』と思って覗いたら、エリザベスさんが占いをしてて… あたし、列に並んだんです。なんで並んだんだろう。よく分からないけど、並んじゃったんですよね」


「あたしの番になって、エリザベスさんの前に座って、サングラス外して、『こんばんは』って言ったんです。エリザベスさん、絶対にあたしだって気がついたはずなんですけど、表情全然変えないで、『見たいことをいいなさい』って一言」


「で、聞いたんです」
「なにを?」
「私は、これからどうすればいいんでしょうって」


「なんて言われたの?」


「『あなたは、一人の普通の女性として、普通に生きていれば大丈夫。普通に生きていれば、普通に悩みも困難もやってくるけど、普通の人が普通に乗り越えるように、あなたも普通に乗り越えられる。普通の人に訪れる喜びにも出会えます。普通にしていればそれでいいのよ。だってあなたが欲しかったのは、普通だったんだから』って」


「宝物だと思いました。その時」
「宝物?」
「はい。私が欲しかったのがなんなのか。しっかりとわかった気がしました」


「あの言葉はあたしの宝物です」


○同時刻・それぞれの場所

「はい、もしもし」
「もしもし。明日香かい?」
「どちら様ですか?」
「リズだよ」
「ああ、なんだ、リズさんか。びっくりした。誰かと思った。どうしたんですか? 電話してくるなんて珍しいじゃないですか」
「仕事中?」
「あ、今ちょうど終わって、帰ろうかなって」
「じゃあ、ちょっと話していいね」
「いいですけど、なんかあったんですか?」
「あんた、バカ?」
「えっ…」
「あんたバカかって言ってんの」
「なんですか、いきなり」
「なんであんなことするんだ」
「え、なにをですか」
「あんた浩美に男の格好させて、一緒に新宿歩いたろ」
「あ、はい」
「説明しろ。なんでした」
「なんでって… あたしの学生時代からの夢だったんですよ。浩美先輩と腕組んでデートするの」
「夢だったら、なにやってもいいのか」
「えっ…」
「夢だったら、なにをやってもいいのかって聞いてんの」
「でも… そのくらいのことやってもいいじゃないですか。だって…」
「だってなんだよ」
「浩美先輩、何の相談もなく、勝手に女になっちゃうんだもん」
「やっぱりあんたもそう思ってるんだ」
「なにを?」
「浩美が男から女になったって」
「ちがうんですか?」
「全然ちがうよ。バカ」
「リズさん。なんでそんなに怒ってるんですか」
「バカが嫌いなだけだよ。いいかい、浩美とちゃんと話しな。あんたさあ、まだ一度も目線合わせてないだろう。浩美と」
「えっ… 合わせてませんか? 目」
「合わせてないよ。あんたの態度は合わせてない態度だよ」
「そうなんだ…」
「目を見て、浩美の中に何があるのかよく見るんだ」
「浩美先輩の中?」
「そうだよ! 浩美の中に、どんな人間が入ってるのか、ちゃんと自分の目で確かめるんだよ。わかったね!」


○同日・1時間後、下宿

「うわっ。びっくりした。浩美ちゃんか」
「あ、すいません」
「どうしたの、デンキもつけないで」
「この方が、外の星がよく見えるから」
「なるほど」
「つけますか? デンキ」
「いい。ちょっとお水飲みに来ただけだから」


「浩美ちゃん」
「はい」
大学は…」
「9月に入ってからです」
「ああ、じゃあもうちょっとのんびり出来るわね」
「はい。あ、でもそんなにのんびりは出来ないんですよね」
「そうなの?」
「はい。お金かかるから、バイトしないと」
「ああ、医学部って大変だもんね」
「はい。父からいくらか仕送りはあるんだけど」
「国立だから、安いとは言えね」
「あたしにとっては安くないです」
「そうか。そうね」
「はい」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
「あ、明日香ちゃんおかえり」
「ただいま」


「おかえり」
「ただいま」
「今日も遅かったね」
「うん」
「ラジオ局って忙しいんだね」
「部屋暗くしてなにしてたんですか?」
「ん? ああ、星を見てたの。今日は意外と見えるね」
「そう」
「うん」


「いやだったんですか?」
「え?」
「今日の昼間、いやだったんですか? 男の格好するの」
「ああ…」


「別にいやじゃなかったよ」
「正直にいえばいいんですよ。いやなんだったらいやって」
「別にいやじゃなかったよ、ホントに… ただ、ちょっと心配だったかな」


「『明日香ちゃん、ホントにこんなことで喜ぶのかな』って。あれでよかったの?」
「目を見てないってホント?」
「え?」
「あたしが、浩美先輩の目を一度も見てないってホント?」


「見てないね」
「ホントに?」
「正確に言うと、最初に一回だけ。このまえ3年ぶりに会ったとき。あの時は見てくれた。ちょっとだけだけど」


「うん」
「全然気にしてなかった」
「無意識だったんだよ、きっと」
「ごめんなさい」
「いいのよ。だって明日香ちゃんがショックを受けるのは覚悟してたし。無理ないよ」


「先輩、一つ聞いてもいいですか?」
「なあに?」
「どうして、一言相談してくれなかったんですか?」


「手術のこと…」


「前にも明日香ちゃん、それ聞いたよね。『どうして相談してくれなかったのか』って」
「…」


「相談する気持ちは、一切なかったよ」
「!」


「あたし、病気だったんだよね… 病気になったとき、『治した方がいいか治さない方がいいか』なんて、人に相談する人、いる?」
「…」
「あたしは一人で悩んだ。手術するかしないか。一人で決めようと思った」
「…」
「あたし、3年前に、おかあさんが亡くなったでしょ」
「あ、はい」
「うん」


「おかあさんには前から、あたしの病気のこと打ち明けてたんだよね」
「…」
「おかあさんは、ずーっと手術を勧めてくれてたけど、あたしはなかなか勇気が出なかった」
「…」
「でも死ぬ前におかあさんがあたしに言ったんだ」


「『ひーちゃん。ちゃんと産んであげられなくて、ゴメンね』って」
「…」
「その時、手術するって決めた」
「…」
「それからは怖いなんて一度も思わなくなった。涙も流さなくなった」
「…」
「あ、ちがうや。一回だけ、涙が出たときがあった」
「…」
「担当の先生の初診のときに、言われたんだ。『間違った乗り物押しつけられて、苦しかったね』って」


「その時、絶対あたしも医者になるんだって、改めて思った。あたしも、あたしと同じ患者に、同じことをいいたいって」
「…」
「でもね。明日香ちゃんに再会する前は、メチャクチャドキドキしたんだよ。ホントに。きっと、すごく傷つけちゃうかもしれないって」
「…」
「だから、精一杯笑顔作って会おう。今私はとてもうれしいんだってことをわかってもらおうって。思いっきりの笑顔になろうって」
「…」
「この病気で手術した人は、だいたい二通りに別れるの。誰も知り合いがいない場所で生きるか、知り合いに打ち明けて生きるか」
「…」
「私は、知り合いに打ち明けて生きるって決めた。それは明日香ちゃんがいたからだよ」
「!」
「一番最初に明日香ちゃんに伝えたかった」
「なんで?」
「え?」
「なんであたしなんですか?」


「あたしが、浩美先輩を好きだったから?」
「それもあるけど… あたしが明日香ちゃんを好きだったからだよ」
「!」
「明日香ちゃんがあたしのこと好きでいてくれてるのは、ずーっとわかってた。でも、それってあたしを男として好きでいてくれたんだよね」
「…」
「私も男のふりをして、明日香ちゃんと接してた。でも、そんなのウソじゃない。ウソの間柄じゃない」


「ウソの間柄なんて欲しくない。あたしは、ホントウの間柄が欲しかった」


「女友達に… なりたかった。明日香ちゃんの」


「明日香ちゃんはさあ… アメリカから帰って来たら、あたしが男から女になってたって思ってるかも知れないけど、そうじゃないんだよ」
「!」
「あたしはね。生まれたときから女だったんだよ。女として生まれたんだ。でも、ただ病気で男の体で生まれちゃってただけ」


「病気って言うか、怪我って言った方がいいかもしれない」


「あたし、怪我をして生まれてきちゃったんだ」
「…」


「明日香ちゃん。一つ聞いていい?」


「あたしのこと気持ち悪い?」
「!」


「明日香ちゃんがさ、どうしても手術したあたしを許せないと思うんだったら、それでもいいよ。一緒に暮らすのがつらかったら、あたしは出て行くよ。実はもともとそう決めてたんだ。明日香ちゃんがいやだったら、出て行こうって。でもね、これだけはわかって。これだけは」


「あたし… 治ったんだよ… 怪我が治って帰って来たんだよ… 治ったんだ… あたし… 治ったんだもん」
「浩美先輩」
「?」
「ちょっと失礼します」


「浩美先輩」
「?」
「あたしでよかったら、友達になってください」
「!」
「あたし、浩美先輩と、ホントウの間柄ってモンになりたいです!」
「…」


○同日・数時間後

「ちゃんと立てよ! 小林!」
「そんなこと言っれも、あんらにのまされたらさあ」
「なに、ヘベレケじゃん! 二人とも!」
「あたしはしゃんとしてるよ。弱ぇぇな、男のくせに。波子は?」
「とっくに寝た」
「浩美は?」
「お風呂」
「そうか」
「どこで飲んでたの」
「ふかいのいらかや」
「え?」
「ふかいのいらかや」
「なんて?」
「向かいの居酒屋」
「ああ」
「オレが仕事終わって帰ってきらら、リズさんが待ち構えてて、強引に」
「強引に?」
「今夜は、早く帰っちゃいけねーとかなんとか言っちゃって、強引に。あ、オレもうダメだ。死ぬ」
「だらしねえなあ。部屋に連れていってやるよ」


「はあ。部屋に放り込んどいた」
「リズさん、酒で人を潰すクセ、治した方がいいよ」
「なに言ってんだい。このクセが、世界を動かすんだよ」
「意味分かんない」
「そっちは。どうなった」
「うん。ちゃんと話した」
「そうか」
「リズさんに怒られた意味がわかった」
「あたしは怒ったわけじゃないよ」
「そうですか?」
「言ったろ。バカが嫌いなだけ。で、どんな風にまとまった?」
「約束した。ホントウの間柄になろうって」
「そうか。結構結構」


「むふふふふ」
「なんですかリズさん。気持ち悪い」
「ホントウの間柄が、もう一組増えそうなんだよ」
「え? なんの事です?」
「明日の朝になれば分かる。さあ、寝んべ寝んべ」
「なになに?」
「このあとしばらくは下にいない方がいい」
「なんなんですか」


○次の日・朝

「よし、思った通り」


「あ、おはよう」
「おはよう、明日香」
「リズさん、なんでこんな早起き?」
「まあな」
「ああ、腹減った。朝は食っても太んないから、ガッツリ食うぞぉ」
「ご飯無いよ」
「え?」


「なんで?」
「寝坊じゃね? 波子」
「めずらしい! なんかあったの?」
「なんかあったのかねえ」
「おはようございます」
「おはよう。おや、いいね」
「そうですか?」
「回って… いいわぁ」
「あたし、スカート履くの生まれて初めてなんですよね」
「あたしのスカート貸して上げたの。ねー」
「ホントウに大丈夫ですか?」
「あんたは、どんなもの着ても似合うねえ」
「ありがとうございます」
「ちょっと。どんなもの着てもって、ろくな服じゃないみたいじゃない」
「失敬失敬」
「でも、ちょっと短くないですか? なんかこの辺がスースーして」
「そりゃしょうがないだろ、明日香の体型にあわせた服なんだから」
「どうせあたしは、足は長くないですよ」
「失敬失敬」
「失敬ばっかり」
「浩美、朝からどこいくの」
「今日からバイトさがしなんだよね」
「いつまでも遊んでられませんから」
「そんな事より、ショックなんだよ浩美」
「どうしたの明日香」
「波子さんが寝坊して、食事の準備できてないんだよ」
「え? ホントに?」
「ホント」
「波子さん、よく寝坊するんですか?」
「めったにしないね」
「何かあったんですかね」
「たぶん、疲れちゃったんじゃない?」
「疲れちゃった? 昨日、なんかあったっけ?」
「さあ。いつも通りだったと思うけど」
「ごめんなさーい! あたし寝坊しちゃったぁ!」
「頼むよ、波子さん! あたしお腹ペコペコ」
「ごめんなさい。今すぐ作るからね」
「ゆうべ、なんかあったんですか?」
「え? 別に… 何もないよ」


「なんですか、リズさん?」


「ん」
「なんなんですか」
「ん? 何、どうしたの。なんかあったの?」
「波子さん、寝坊」
「うっそ、珍しいねえ。波子さんが寝坊なんて」
「あんた、芝居下手」
「え?」
「食事の準備、まだなんだよ」
「そうなんだ」
「ホントごめんなさい。今すぐ作るから」
「今からだとだいぶかかるよね。いいや、あたし駅前で牛丼かっこんでいくから。遅刻しそうなんだ」
「牛丼! あたしも行きたい! 女の人が牛丼屋で食べてるの、かっこいいなあと前から思ってたんだ」
「そう?」
「じゃあ、行くか」
「うん!」
「ちょい待ち」
「?」
「?」
「何?」
「今から起こること、もうちょっと見ていきな」
「何が起こるの?」
「波子」
「はい」
「どうして寝坊なんかしちゃったの?」
「さあ、ちょっとうっかりしててあたし…」
「うっかり。それだけ?」
「…はい」
「小林」
「はい」
「小林は知らないのか? 波子の寝坊の理由」
「えっ… なんでオレが知ってるの…」
「ホントウに、心当たりないのね。二人とも」
「さあ…」
「全然…」


「何、リズさん。いったい何の話?」
「あたしは、波子の寝坊の理由、知ってるよ」
「えっ? なんなんですか?」
「ゆうべこの二人、一発やっちゃったのさ」


「えっ」
「えーっ!」
「な、何を言ってるんですか!」
「やめてください。急に何いうんですか」
「ホントなの?」
「ホントだよ。さっき波子の目を見ただろ、数年ぶりに目に女の満足感が浮かんでた。ありゃあ、間違いなく一発やった目だ」
「ホントに?」
「あ、二発かもしれないが」
「二発はしてないよ! あ」


「観念して、ちゃんと白状して、楽になっちゃいな」
「それは…」
「なんというか…」


「ふたりとも、やっただろ!」
「…はい」
「…はい」
「マジかよ!」
「おどろいたあ!」
「波子、たぶん大変な満足感で、ついついしでかしたのさ。寝坊」
「はずかしいぃ」
「あたしは、前々からイライラしてたんだよ。二人がお互いを意識してるのは、もうずいぶん前からわかってたから」
「ホントに?」
「だから、ゆうべ小林をベロベロにしただろ? あの時、ちょうどいい機会だと思って、小林を部屋に放り込んだのさ。波子の部屋にね。そしたら、案の定、なるようになったというわけさ。あんた前にあたしにさあ、『この下宿で変なことしないでくださいよ』って言ったよね」
「…いいました」
「ゆうべ、あんたがやったことは?」
「すいません」
「あのね。二人、まとまっちゃいな。そしたら、ゆうべの事も、変なことじゃなくなる。いいな小林」
「まとまるって…」
「くっつけっての」
「えっ…」
「あたしはグズは嫌いだよ。波子は待ってるんだから。な」
「…」
「…わ、わかりました」
「な? ホントウの間柄が、もう一組増えただろ?」
「うん、増えた」
「増えたね」
「こういうのを、割れ鍋に綴じ蓋っていうんだよ」


「あ、失敬失敬」
「あ! マジ遅刻だ! 行こう!」
「うん」
「行ってきまーす」
「行ってきまーす」
「あの、リズさんは食事は?」
「あたしはもう一眠りする。小林と波子がやったかどうか、確かめに下りただけだから」


「…」
「…」
「おいで」
「うん」

    了。



これで、この物語は終わりです。
会話だけで、読みにくかったですか? 
感想などをコメントしてくださればうれしいです。

もしもご希望があれば、他の作品もアップしようかなとも思っています。
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コメント 2

ゆかこ

会話版『ホントウの間柄』ありがとうございました。

観にいかせていただいた時のセットや会場の空気感を思い出しながら読ませていただきました。

女に甘えず、女を磨こうと改めて思ったことも思い出しました(笑)

ありがとうございました。

リクエストが出来るなら『何かの美味しいキッサ店』希望です。

宜しくお願いします。
by ゆかこ (2014-01-26 21:22) 

妹尾匡夫

コメントありがとうございます。

次にアップするかもしれない作品ですが、
今回はちょっと長かったので、もうちょっと短い上演時間だった作品をアップするかもしれません。

たとえば、一人芝居とか……

もちろん「何かの美味しいキッサ店」もアップするかもしれません。

by 妹尾匡夫 (2014-01-27 22:19) 

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